「坊守」ってどんな人? ~ 『広辞苑』の訂正問題

以前の記事でも紹介した通り、浄土真宗では、住職の配偶者を「坊守(ぼうもり)」と呼びます。building_tera「坊守」の「坊」はもともと、僧侶が住む部屋(房)が集まる区画のことを指し、「寺院」の意味でも用いられます。「坊守」とは、その坊(寺院)の留守・守護にあたる者ということです。(ちなみに、「坊主」は、その坊(寺院)の主ということですが、現代では差別語とされることもあるので、注意が必要です・・・。)

1802_広辞苑さて、先日、この「坊守」という言葉の定義が記事となり、ちょっと話題になりましたのでご紹介いたします。その記事によりますと、2018年1月に発売された『広辞苑 第7版』の「坊守」についての記述に問題があるという指摘がなされたとのことです。辞書の中で、坊守とは「浄土真宗で、僧の妻」であると書かれているのですが、これに対し、坊守をされている男性が、「女性住職の配偶者や家族も坊守になれる」と抗議したのです。

そもそも、この「坊守」という言葉は室町時代から存在していたのですが、当時の「坊守」は、「坊主」とともに夫婦で念仏道場を指導する立場にありました。その頃の文献をあたってみると、「坊守」と「坊主」という名称の違いはあるものの、確固とした性的な役割分担が両者の間に存在していたわけではないようです。

1802_亭主関白(いらすとや)その後、「坊守」という言葉の用例はあまり見られなくなるのですが、江戸時代の18世紀ごろ、浄土真宗の学僧たちによって、坊守の心得を説く著作が著されるようになりました。そこでは、坊守の役割に関して、常に家にいることや内助が強調されており、当時の侍の妻のような役割が求められています。封建社会における家父長制や社会規範の影響でしょうか。こうした傾向は現代も続いており、坊守に求められる役割について、いわゆる「大和なでしこ」「良妻賢母」的な要素が今でも強いとの指摘がなされています。(←もっとも、現実がその通りかどうかは全くの別問題です。(^▽^;) 

family_kyousaikaしかし、浄土真宗系のお寺のうち、9割以上を占めている浄土真宗本願寺派(西本願寺)や真宗大谷派(東本願寺)では近年、そうした性的な役割分担を見直し、男性が坊守となることが出来るように法規が改正されました(前者では2004年、後者では2008年)。よって、この徳養寺においても、これを書いている若院が「坊守」に、そして、わが妻の「若坊守」が僧侶となって「住職」になることだってありうるわけです( ^ω^)。

上述の男性の抗議に対し、『広辞苑』発行元の岩波書店は、坊守の記述について、「一般的、典型的な意味を掲載するのも国語辞典の役割。誤りとまでは考えていない」と応えているそうです。たしかに、まだまだ男性の坊守は極めて少ないので、今のところは、「坊守」が「浄土真宗で、僧の妻」を指すというのは、「一般的、典型的な意味」と言えるかもしれません。学校の教科書の記述内容においても、新たな学説の採用には時間がかかりますので、辞書の記述の変更も、そうすぐにというわけにはいかないのでしょう。

とはいえ、上に述べたようには世の中の実態は刻々と移り変わってきておりますので、次の『広辞苑 第8版』では是非とも改訂していただければと思います。1802_お願い(いらすとや)

[参考文献・記事]

・産経ニュース 「『広辞苑』に相次ぐミス指摘国民的辞書揺らぐ信頼」(2018年1月26日掲載)

・池田行信『現代真宗教団論』法蔵館、2012年。

・中村元ら(編)『岩波仏教辞典第二版』岩波書店、2002年。

・文化庁(編)『宗教年鑑 平成29年版』文化庁、2017年。

・Simone Heidegger, Buddhismus, Geschlechterverhältnis und Diskriminierung: Die gegenwärtige Diskussion im Shin-Buddhismus Japans, LIT Verlag, 2006.

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